高速進化で高まるパフォーマンスへの期待−FIXプロトコルによる取引所への最速アクセス
TOPIX(東証株価指数)は2005年、金融市場の劇的な回復を示す45%の伸びを見せた。これと並行し、バイサイドとセルサイドの両市場関係者から、取引所への高速アクセスの需要が急増している。各金融機関がより速い市場へのアクセスを提供しようとし、競争が激化したが、このような状況は珍しいことではない。ソフトウエア・ベンダーがFIXエンジンの処理能力を高めて競争力を高めることも目新しいことではない。
しかしながら、大手バイサイドによるDMA取引(ダイレクト・マーケット・アクセス−市場へのリアルタイム・アクセス)の重要性、バスケット取引、そしてアジアにおけるアルゴリズム・エンジンへのアクセスの需要の高まりと言ったものが、一つにはバイサイドを物理的により市場の近く(例えば近接ホスティング)に移動させるといったような潮流を高めている。しかしながら、電子取引の要となるのは、取引所毎に異なる独自プロトコルへと変換するゲートウェイ(ラインハンドラー)である。つまり、ゲートウェイのソリューションプロバイダーであるネットワーク・プロバイダー、トレーディング・システムのプロバイダー、FIXエンジン・ベンダーなどから最適のパートナーを選ぶことがDMAにおける成功の近道になる。日本では、従来からソフトウエア・ベンダーがブローカーのOMSに接続するための、標準的なApplication Programming Interface(API)を提供し、ブローカーのOMSは、ベンダーから提供されたAPIとゲードウェイを経由し取引所に接続している。
今日の日本では、より速く取引所にアクセスすることが最重要課題であり、ブローカーの社内プロトコルを取引所のネイティブ・プロトコルに変換するラインハンドラーは、ともすると取引過程に1ステップ余計な負荷をかけることになり、市場へのアクセス遅延の原因になりかねない。今日のFIXエンジンには、FIXメッセージを東京、大阪、JASDAQ、名古屋、TOCOMと言った日本の主たる取引所独自のメッセージ形式に変換できる機能が必要である。
なぜ日本にはFIXラインハンドラーが存在しないのか?
日本市場で現在主に使用されているラインハンドラー・ソフトウエアが初めて出回った頃、日本国内でのFIXプロトコルの知名度は比較的低かった。さらに、日本の証券会社は各取引所によって異なる特異性をすでに自社のOMSプラットフォームに組み込んでいる場合が多く、従来のテクノロジーを変革する動機に欠けていたのかもしれない。こういった事情のおかげで、ベンダーが自社のラインハンドラーの機能を向上させる必要性に迫られることもない。しかしながら現在、ブローカーはより良いパフォーマンスを得るため、自社のOMSを迂回し、取引所と直接DMAなりアルゴリズム・トレードによる執行を強く望むようになっている。バイサイドのFIXを利用した電子発注の割合が増えるにつれ、その受け口であるブローカーのFIXエンジンを取引所のネイティブAPIに直接つなぐのは自然な流れである。
過去において、FIXを取引所のプロトコルに接続する際の妨げとなったのは、日本の取引所が標準的なFIXプロトコルに準拠しない、いわゆる“方言”やカスタム・タグを多数導入したことに起因するといわれている。この点は、東証の旧FIXゲートウェイの重要な問題点となった。メッセージをフォーマットするのに多数のカスタム・タグを必要とした。従来のベンダーの提供するラインハンドラー製品を活用し続ける方が、簡単で低価格、しかもパフォーマンスも良いということがわかり、結局関係者全員が東証のFIXゲートウェイの使用を避けるようになったといわれている。
メタビットは2006年1月に稼働開始した大証新売買システムをきっかけに、東京、大阪、名古屋、JASDAQ、そしてTOCOMと言った主たる取引所のネイティブ・ゲートウェイにつながる純正FIXプロトコルに準拠したラインハンドラーを開発した。
メタビットは日本の主たる取引所へのアクセスを標準化し、以下のニーズを満たすFIXラインハンドラーを実現する。
- バイサイド、セルサイド両機関に各取引所への最速なアクセスを提供する。
- 証券取引法や各取引所の規則を遵守しながら、ブローカーのOMSを迂回し、各取引所のネイティブAPIに真のDMAを可能にするFIXアクセスを実現する。
- 他のアジア市場にも通用するFIXラインハンドラーの標準化された技術的枠組みを構築する。
- 運用コストと投資額の経費節減を実現するため、全ての取引所に通用する共通のインターフェースを確立する。
メタビットのFIXラインハンドラーは既にTOCOM、大証、東証で実働しており、2006年第3四半期にはJASDAQ、そして第4四半期には名古屋証券取引所にも対応する予定だ。
このFIXラインハンドラーは優れたパフォーマンスを誇るCameronFIXプラットフォーム、ユニバーサル・サーバー6.2の技術を利用しており、FIXバージョン4.0から4.4まで全てサポートする。
メタビットの挑戦課題
課題1:日本の全ての取引所に共通のFIXインターフェースを提供し、取引所固有の特異性からユーザーを解放する。
このFIXインターフェースはFIXプロトコルの次のような仕様に対応しなければならない:
注文のステータス管理
- メッセージの配信順序が逆転することのある、取引所電文のレースコンディションに対応する
- 注文の様々な情報を識別するための正しいFIXタグの特定
ラインハンドラーは最終的に、ユーザー側アプリケーションと標準FIXで通信しなければならない。
最初の課題の解決方法は以下の通りである。
- メタビットは自社のAccelerated Routing Architecture(ARC)からオーダー・ステート・マネジメントとFIX APIモジュールを再活用し、これにCameronFIXプラットフォームとその標準モジュールを組み合わせることにより、さらに高性能なラインハンドラー・アーキテクチャを構築した。これらの構成要素は日本の金融業界ではすでに性能が実証されている。CameronFIXプラットフォームは、FIXの基礎アーキテクチャと他市場にも共通する標準的なインターフェースを提供し、グローバルなサービスを展開するブローカーがバイサイドに最良のDMA環境を展開できるようにする。
- 信頼性とパフォーマンス目標に弊害をもたらす可能性があるため、メッセージをキューに滞留させたり、再配列したりしないというポリシーを導入した。しかしながら、メッセージのシーケンスが乱される場合でも、ステータス管理の信頼性は保たれなければならない。
課題2:日本市場へ最高のパフォーマンスを誇るゲートウェイを提供する。この目標の策定は容易だが、金融業界が求める水準が継続的に高まる中、ユーザーの望む最高のパフォーマンスを達成するのは困難とも思える。現在のパフォーマンスは細心のデザインと複数回に及ぶテストで一貫して行われたパフォーマンス・チューニングの賜物である。
解決策としては、以下のポイントがあげられる。
- CameronFIXプラットフォームを利用しつつ、一部独自のデザインを導入し、ネットワークやディスクへの書き込み回数を最低限に抑えながら、障害があっても全ての情報がリカバリーできるようにすること。
- 各取引所のパフォーマンスに制限があるため、FIXラインハンドラーのアーキテクチャは二つの機能に分けられている。一つはFIXセッションを管理するラインハンドラーであり、各取引所の「仮想サーバー」と対をなすもう一つの要素である「ExchangeTerminal(ET)」と相互に作用する。このETは取引所の中継機または通信サーバーを管理するのに必要なもので、複数のCPUに分散できる。FIXラインハンドラーがスループットの最適化を行い、負荷をバランスよくETに分散するのである。
- FIXラインハンドラー・プロジェクトの一環としてテストベッドを設け、高速なパフォーマンス・テストを繰り返し実施した。テストは一度に流れるメッセージ数としては通常より多い10万件以上で行われた。大証新売買システムが2006年1月に稼働するまでの6ヶ月間、テストが繰り返され、パフォーマンスの調整が続けられた。
課題3:市場の変化に対応し、迅速かつ信頼性のあるアップグレードが可能なフレームワークをつくる。
- 取引所のメッセージをつくり、モデリングできるフレームワークがマイクロソフト・エクセルで構築され、自動的にソース・コードが生成されるようにした。
- 自動テストのフレームワークがエクセルでつくられ、継続したテスト・ケースと期待される結果値が記載されており、シートから直接実行された。日本の取引所に対して150件以上のテスト例が繰り返し実行された。
課題4:最後の課題は、開発センターはシドニーにありながら、大証を除いて、他の取引所の仕様書が日本語のみで表記されている点であった。
- メタビットの東京オフィスが各取引所の仕様書の英訳を請け負った。これは社内のFIXスペシャリスト、取引所ゲートウェイの専門家、そしてビジネス・アナリストの共同作業の賜物である。日本の金融業界のFIXと取引所接続の専門家から成るチームが翻訳ミスによる意図せぬデザイン・ミスやコードのエラーなどないよう正確な英訳を完成させた。このようなミスやエラーはタイムリーな導入を遅らせることもあり、テストや導入スケジュールに支障を来すことにもなりかねない。
最高のパフォーマンスを求めて
結局市場は常により良いパフォーマンスを期待している。しかし、パフォーマンスを改善することが永続的な目標でない限り、今日のベスト・パフォーマンスは明日のベストとは限らない。ベンダーは競合他社のみならず自社のベンチマークをもしのぐ高いパフォーマンスを常に期待されている。この競争サイクルは常にタイムが競われる競技スポーツで、1000分の一秒の違いが勝敗を決するのに似ている。
パフォーマンスはリスク管理にも似てもいる。つまり、リカバリーの保障とハイ・アベイラビリティーはユーザーをデータ損失から守ってくれる反面、パフォーマンスを犠牲にする可能性を持っている。
リカバリーの保障にはFIXセッション、発注状況、シーケンス番号に関する重要な情報がディスクに書き込まれる必要がある。ハイ・アベイラビリティーのためには同じ情報をネットワーク上で複製する必要がある。ところが、ディスクやネットワークへの書き込み毎に時間的ロスが発生する。これらを最小限に抑えることが良いデザインを生み出す鍵である。
ソフトウエア・デザインの最適化が考慮された後は、当然ハードウエアでパフォーマンスを改善することになる。ストレージ・エリア・ネットワーク(SAN)やブレード・サーバーのような最近のサーバーやストレージ統合技術の進歩により僅かな潜時で永続性が保障され、またサーバー障害時、サーバー間でネットワーク障害が発生しても、迅速なサービスの復旧が可能になった。
取引所側の制限を考慮すると高いパフォーマンスを求めるのは偽善的か?
FIXエンジンが常にパフォーマンスを向上させていることによって、バイサイドやセルサイドも取引所へ毎秒大量の注文を出すDMAアクセスのスピードを向上させている。しかし、取引所がFIXエンジン、ネットワーク、OMSと同じボリュームを処理できないとしたら、実際のパフォーマンスはどうなるのだろうか?一つのテクノロジー構成要素に焦点を当て過ぎると他の技術的なボトルネックを見落としてしまう可能性があり、結果としてパフォーマンス改善の効力を弱めたり、期待する結果を得るために追加投資が必要となってしまったり、複雑なアーキテクチャを要したりすることを念頭におかなければならない。
具体例−
必要なユーザー要件:
ユーザーが東証のTOPIXバスケット(約1550銘柄)を執行しようとする。目標は1秒以内にバスケット全体を取引所に送ることである。ユーザーは遅延を避けるため自社のOMSを迂回する「真」のDMAアーキテクチャの導入を希望する。
真のDMAプラットフォームはブローカーのサイトかISVのサイトで構成できる。真のDMAとはバイサイドが技術的にブローカーの名前で各取引所に直接アクセスすることを言う。ブローカーは相互通信可能なモニタリング・ツールを利用し、コンプライアンス義務を執行する。ブローカーのOMSを迂回し、DMAとアルゴリズム・トレードを提供するものである。最終的にはFIXエンジンがトレード終了後の処理を円滑化し、STP化を促進するための約定をブローカーのOMSと清算システムに流す。
テクノロジーの基本データ:
- メタビットのCameronFIXラインハンドラーはハイ・アベイラビリティー構成ではない場合で毎秒1,350件の注文を取引所に送ることができる。
- 東証は自所の受取用仮想サーバーのパフォーマンスに関する正式なデータは提供していないが、理論的に64Kネットワーク接続で毎秒49.35件の注文に対応できる計算になる(東証のラインハンドラー用技術仕様書によると注文一件につき166バイト、ないし1,328ビット要する)。
この計算によると、FIXエンジンのラインハンドラーの処理能力は東証のバーチャル・サーバーに対し28対1の割合になる
さらに、東証の上記推定値は仮想サーバーが同時にFIXエンジンに対して受入通知を送ることを考慮していない。経験則から実際の処理能力は毎秒20件、あるいは前出の比率は67対1になることを示す。
取引所の制約は明白である。1秒以内にTOPIXのバスケットを出す、すなわち毎秒1,550件の発注を達成するにはブローカーはメタビットのラインハンドラーを最低20の東証仮想サーバーに接続する必要がある。従って、複数の仮想サーバー間のオーダー・フローを分散するためにFIXラインハンドラーでは20のETが構成されなければならない。ブローカーが持ち得る仮想サーバーの最大数は取引所システム自体のパフォーマンスに直接影響するため、取引所によってある程度規制されている。しかしながら、FIXラインハンドラーの分散能力を十分に活用するにはなるべく多くのETを設けるのが鍵である。パフォーマンス・テストによるとETの数を70まで増やしてもFIXラインハンドラーのパフォーマンスは低下しなかったことは注目に値する。むしろ、処理が分散される分出力能力は向上する。先の、「取引所側の制限を考慮すると高いパフォーマンスを求めるのは偽善的か?」という質問にもどろう。
答えは、日本におけるDMAやアルゴリズム戦略トレードのために素早いソリューションの導入を検討する企業はインフラ全体を分析し、トレード・アーキテクチャの最大の弱点に焦点を置くべきである、ということがいえる。
今日のFIXインフラはハイ・パフォーマンスを提供できる。しかしこれは取引所自体を含め、取引所につなぐまでのアーキテクチャ全体が最高のパフォーマンスに対応することで初めて実現できるものである。
日本のように取引所のパフォーマンスに限界がある場所ではこのような制限を回避することや目標のパフォーマンスを達成するには新世代ラインハンドラー、つまりFIXラインハンドラーの導入が必要である。このような場合、ブローカー側にコスト負担がかかることになる。
日本の場合近年の市場活性化に伴い、取引所のシステム処理能力向上に対する認識が高まっている。
FIXは今、日本でもしっかり定着している。日本の各取引所がDMAを可能にしてくれる自所のFIXゲートウェイを提供しない理由はないはずである。取引所自体が金融業界の需要を理解し、DMAとアルゴリズム・トレードのための最高のパフォーマンスを提供してくれるという実利的な対応を期待するものである。
FIX Global Vol 1 Issue 9 - March 2006
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